或る世界

溝に残る赤

爪が越えた段差だけ赤い紙は細く残る

赤いシールの角へ爪を入れ、透明な蓋から少し持ち上げた。平らな場所では幅のまま剥がれたが、成形された溝へ届くと急に重くなる。さらに引くと、赤い紙は溝の縁で二つに裂け、細い方だけが蓋へ残った。

残った赤は、溝の底から斜面へ沿っている。上から爪を滑らせても段差で止まり、端をつかめない。蓋の平面を押さえると、透明な面が内側へたわみ、溝の角だけが指先へ硬く返ってくる。

シールは柔らかく、蓋の凹凸に合わせて貼られていた。けれど剥がすときには、その柔らかさが一枚のまま戻るとは限らない。平面へ付いた部分は同じ角度で持ち上がり、溝の中だけは引く向きと接着面の向きがずれる。形に従って貼れたものが、形を逆にたどっては剥がれなかった。

容器を半回転させ、今度は溝の低い側から爪を入れる。細片の端が透明な面から浮き、指の腹へ貼り付いた。ゆっくり引くと赤い線は溝を上り、最初に破れた縁までつながる。そこでまた短く切れ、爪先に数ミリだけ残った。

大きく剥がれたシールへ、その細片を押し付ける。元の切れ目は合わず、赤い線が少し斜めに重なった。蓋には紙がなくなったが、溝の底だけ接着剤の光が細く続いている。指でなぞると一度引っ掛かり、透明な段差が小さく鳴った。