或る世界

屋根を戻る赤

車は先へ進み赤い帯だけが後ろへ滑る

赤い看板の前へ黒い車が入ると、ボンネットに細い光が載った。車は道の先へ進んでいるのに、赤い帯はフロントガラスを上り、屋根の前から後ろへ滑っていく。両者の向きが反対に見え、歩道で首だけを車へ合わせた。

看板の光は車に付いて走っているのではない。光の届く短い区間へ車体が入り、前の面から順に受け取っては外れていく。そのため車が先へ運ぶほど、赤さは車体の後方へ移る。屋根の中央で一度広がり、後ろの窓では細くなった。

親指と人差し指で小さな隙間を作り、そこから車だけを見る。看板も店先も隠れると、赤い帯は車体自身が発しているようだった。隙間を少し左へ動かせば、赤さの出発点である看板が戻る。目の前に両方があるときより、片方を隠した方が色の所属は簡単に入れ替わった。

車の後部が光の区間を抜ける。赤い帯は最後まで追いかけず、角を回る手前で薄く切れた。車は黒さを取り戻したまま先へ進み、看板の赤は元の位置のままだ。次の青い車が入ると、その赤は青い面の上で紫に近い色へ変わる。

白い車では、同じ光がボンネットから扉まで長く残った。進む速さは前の車と大きく違わなくても、赤さの境目がぼやけ、どこで受け取りどこで返したのか分かりにくい。後輪が看板の前を過ぎたあと、路面に落ちた赤だけが動かず、その上を黒いタイヤが横切った。