帰りの左袖

道の端を進むと、右肩の後ろで穂が衣服を擦った。風は左から右へ吹き、細い茎を歩く先と同じ方向へ倒している。穂先は背中に短く触れたあと、そのまま後ろへ滑って離れた。
少し先で立ち止まり、来た方へ身体を返す。風向きは変わらず、草もさっきと同じ側へ傾いたままだ。ところが歩き始めると、最初の穂は背中へ逃げず、左腕の前から袖口へ入り込む。前腕を上げるまで、細い先が布と手首の間をくすぐり続けた。
行きには、身体が穂の傾く向きを追い越すように進む。接触した穂は肩から背へ流れ、歩みは止まらなかった。帰りには傾きと向き合うため、穂先が腕の正面で止まり、茎の弾力が袖を押し返す。同じ一本が柔らかくも硬くもなったのではなく、身体の前後が入れ替わる。
腕を胸の前へ寄せて通ると、次の穂は肘の外を滑った。避けたつもりでも、後ろにあった別の一本が脇腹を打つ。行きに触れなかった場所まで、帰りの身体では草の側へ向く面に変わった。歩幅を狭めても、擦れる場所だけが肩、肘、腰へ移る。
草の端を抜けて左袖を二度払う。手首に入った穂先は落ちたが、細い毛が一本、縫い目に残る。指で取ろうと腕を返した瞬間、背後で一斉に草が擦れ、行きには聞こえなかった側から音が追いかけてきた。