額ひとつぶんの夜

部屋の灯りを消しても、窓には机の端が薄く残った。額をガラスへ近づける。冷たさが触れる少し前に、映っていた椅子の背が暗がりへ沈み、中庭の奥にある窓が一つ増えた。
両手を目の脇へ立てると、掌の内側に小さな暗い囲いができる。そこから見る外は、さっきより広いのではなく、室内が重なる余地だけ狭かった。右手を一センチ離せば、壁際の灯りに自分の指が半透明で戻る。左手も離すと、外壁の窓とこちらの棚が同じ高さに並んだ。
ガラスを隔てた向こうから、噴水の音が続いている。水そのものは植え込みに半分隠れていても、落ちる音は消えない。額を離すと音が近づいたように感じ、また寄せると視界の奥へ下がる。耳の位置はほとんど動いていないから、明るくなった室内の像が、音までこちら側へ連れ戻したのだろうか。
もう一度、両手で光を遮った。今度は額がガラスに触れ、冷たさが眉の上へ細く広がる。中庭の灯りは増えず、暗かった植え込みの葉が少しずつ分かれた。外を見るために消したはずの部屋は、完全には消えない。袖口の白さだけがガラスの下端に残っている。
手を下ろし、額を離した。机の端と椅子の背が窓へ戻り、向こうの一階を覆う。見えなくなった噴水から水音が一段強く届いた。窓の中で重なった二つの部屋の間を、袖口の白い影だけが下へ滑って消える。