踏み直す前の土

球が捕手のミットへ収まる音のあと、投手はすぐ次の構えへ戻らず、踏み出した足もとを見た。爪先の前に細い土の盛り上がりができ、踵の側は色の濃い窪みになっている。
右足を半歩引き、靴底の外側で盛り上がった土を窪みへ寄せた。一度では埋まらず、向きを変えてもう一度なぞる。最後に爪先で二度踏むと、さっきの足跡は周りと同じ低さへ戻った。ただ、靴底の線だけは浅い斜線のままだ。
投手板へ足を掛け、脚を上げる。身体が前へ傾き、均した場所へ左足が落ちた。着地した靴は少し滑り、詰めた土を前へ押し出す。投球が終わったとき、同じ場所に先ほどより幅の広い窪みが現れていた。
次の球を受け取るまでの間に、また靴底で土を戻す。完全に平らにするためではなく、次の一歩を置けるところまで戻しているように見えた。投げるたび消しているのに、足は毎回ほぼ同じ跡を作る。
三度目は、窪みの手前だけを軽く踏み固めた。投球のあと、踵の跡はそこを外れ、指二本ぶん左へ残る。投手は新しい盛り上がりへ足を運びかけたが、捕手から球が返ると顔を上げ、二つの窪みを残したまま投手板へ戻った。