椀の三本目

椀に渡した二本の箸を右手でまとめてつまむと、下の一本が指の間から抜けた。先端が縁を越え、内側の斜面を短く滑る。乾いた音が底で一度鳴り、もう一本だけが手に残った。
持っている一本を使って、落ちた箸の中央を押す。箸は底を横へ動くが、丸い内壁へ来ると先が上を向いた。さらに押せば、反対の端がこちら側の縁に沿って持ち上がる。
親指を椀の外へ添え、上がってきた端を縁との間に挟んだ。箸を押している一本、人差し指、親指だけでは届かなかった場所を、動かない縁が下から支えている。三本目の指を借りたような形で、落ちた一本が口の高さまで戻った。
押していた箸をいったん卓へ置き、挟んだ方を先に引き抜く。今度は指の根元まで深く持ち、もう一本を重ねた。先端をそろえようと握り直すと、二本は小さく擦れ、片方だけが一センチほど前へ出る。
食べ終えて箸を戻すときは、二本を重ねず、椀の口へ少し間を空けて渡した。右の一本を指で押しても、隣はついてこない。手を離したあと、さっき底を打った方だけが縁をわずかに転がり、離した幅の中央で止まった。