或る世界

二本線の下の数字

空白には訂正した場所が見つからない

黄色いACキーを親指で押すと、並んでいた数字がまとめて消えた。一文字ずつ戻るのではなく、直前までの長さも、どのキーから押し始めたかも、空の表示からは分からない。指だけが、最後に押したキーの丸い窪みを覚えている。

ノートへ同じ数字を黒い筆記具で写した。途中の一桁を間違え、その上へ短い線を二本引く。横に正しい数字を書いても、訂正線の下には古い数字の丸みが残り、どこで手が止まったかを紙の上から読むことができた。

紙に残る訂正だけでは、前の数字を正しく復元できない。線が重なれば六にも八にも見え、あとで読み返すころには、誤ったのが入力なのか転記なのか区別がつかなくなる。残っていることは確かさの証拠にはならず、空の表示も、最初から何もなかったことを証明しない。

もう一度、電卓へ短い式を入れた。途中で押すキーを間違え、今度はDELで一桁だけ戻してから続きを打つ。答えを紙へ移したあと、電源を切る代わりにACへ指を移す。表示はすぐ空になり、ノートには新しい数字と、その隣で古い数字を横切る二本線が残った。

筆記具を置き、画面を指で軽く拭く。数字はどこにも戻らない。指紋だけが薄い表示面に残り、机の光を受けて、押していないキーの方へ伸びていた。