或る世界

屋根が下がる一席

上昇は窓の外から先に始まる感覚

扉が閉まり、向かいの席へ腰を下ろした直後、座面が一度だけ後ろへ揺れた。動き始めたのかと思って窓を見る。すぐそばの建物の屋根は、まだ窓枠の同じ高さにあった。

足裏へ意識を移しても、床は傾いていない。鉄骨らしい斜めの線だけが窓の外をゆっくり横切る。次に屋根を見ると、軒の線が窓枠より指一本ぶん下へずれていた。身体には上がった感覚がないのに、外の建物が先に沈み始めている。

座席の端を握り、背を少し浮かせた。重さは真下へ戻り、膝が左右どちらかへ流れることもない。円の上を進んでいるはずなのに、乗っている箱はその都度、床を足裏へ向け直していた。

窓の外では、さっき目の高さにあった明るい窓が下へ移る。別のゴンドラは斜め上から近づき、すれ違うころにはこちらより低くなった。高さを増したのはこちらなのか、周囲が下がったのか、座った姿勢のままでは区別がつかない。

背中を席へ戻す。屋根の上端はもう窓の下半分にあり、その向こうへ暗い水面が細く見えた。靴底は最初と同じ平らな床を踏んでいる。窓枠を指でなぞる間にも、建物の灯りだけが一本ずつ下へ抜けていった。