一脚ぶんの通路

手前のグラスを一脚持ち上げると、その場所だけ遠い椅子の背がまっすぐ見えた。右にも左にも透明な器が並んでいる。空いた丸い跡の向こうでは、縁に曲げられない細い室内が窓まで続いた。
グラスを置いたままでも、向こう側は見える。ただし椅子の線は胴の曲面で外へ膨らみ、人影は縁をまたぐところで途切れていた。何かを隠していたわけではないのに、一脚がなくなると、遠くの物どうしの位置が急に揃う。
空所は、それ自体を見せない。見えるのは、そこを通ってきた遠い椅子やカーテンの襞だけである。それでも周囲の曲がった像と並ぶと、何もない場所の方が一つの透明な窓のように感じられた。器の透明さではなく、器がない透明さがある。
飲まずに持っているわけにもいかず、グラスを卓上へ戻す。ただし元の輪から少し右へ置いた。開いていた通路は閉じ、代わりに隣の器とのあいだへ新しい隙間ができる。そこからは先ほどの椅子ではなく、白い卓布の端だけが見えた。
別の一脚へ手を伸ばす。まだ持ち上げる前から、その下に何が現れるかを探してしまう。指が細い脚をつかみ、底が卓上を離れると、遠くの人影の肩が空いた場所へ静かに入ってきた。