或る世界

箸先の浅い窪み

戻る丸みの内側には次の力の行方が残る

箸先を卵黄へ置くと、丸い表面に小さな窪みができた。まだ割れない。力を抜けば、窪みはゆっくり押し返され、橙色の光も元の位置へ戻った。

混ぜるつもりで箸を入れたのに、どこまで耐えるのかを確かめ始めてしまう。最初は一本の先だけ、次は二本をわずかに開いて押す。表面は形を変え、箸の間へ少し盛り上がる。そのたびに手首を止めた。

割るなら、一度強く押せば済む。けれど、まだ戻ると分かると、その余地を使い切る直前まで見たくなる。硬さを知りたいのではない。次のわずかな力が、へこみを深くするだけなのか、膜を破るのか。その境目は、割れた後からしか確かめられない。

次は箸を寝かせ、細い腹の部分で横から押した。一点の窪みではなく、丸みの片側全体がわずかに平らになる。箸を離すと端から順に膨らみ、最後に中央の光だけが小さく揺れた。

もう一度、中央から少し外れたところを押した。箸先が薄い表面を抜け、橙色が細い筋になって隣の具へ流れる。割れた音はしない。指にだけ抵抗が消えた瞬間があり、箸は予想より深く、下の飯らしいものへ触れていた。