花のいない距離

画面の中央で四角い印が緑に変わった瞬間、風が花を奥へ押した。指はもうシャッターを押している。写った一枚では、花弁も葉も柔らかくほどけ、その手前の何もない場所だけに焦点が残っていた。
同じ房へもう一度合わせる。風がやむと枝は戻るが、まったく同じ位置では止まらない。右へ動いた花を追って画面をずらすうち、今度は左から別の蕾が入ってくる。焦点の印は、そのたびに少し遅れて明滅した。
動いた花を撮れなかったというより、花がいた距離を撮ったのだと思う。そこに何もなくなってからも、レンズは直前に測った場所をしばらく信じている。目の前のものが変わる速さと、道具が確かめ終える速さは、わずかに揃わない。
少し待てば風は止む。ところが、止まった花を狙うと、こちらの指まで待ち始めた。動かないことを確かめてから押そうとするほど、次の揺れが近づく。枝先が静かな時間は、眺めるには長く、撮ると決めた途端に短くなった。
三度目は印が緑になるのを待たず、花が手前へ戻る途中で押した。画面を確かめると、房の端にある細い雄しべだけが白い光から抜け出している。枝はまだ揺れていたが、焦点の方が先回りして、その一瞬を待っていた。