親指までの果汁

皿から持ち上げると、親指の腹へ皮の網目が当たった。上に重なったクリームを崩さないよう、はじめは水平に保つ。口を近づける方が早く、背中まで少し丸くなった。
端からかじると、先に柔らかなクリームが触れ、そのあとで果肉が歯に返ってくる。皮はまだ遠い。二口目には薄い生地が横へずれ、白い層だけが唇の端へ残った。手にしたときは一つの菓子でも、口へ入る順番は断面どおりにならない。
半分を過ぎるころ、持ち手だった皮が長すぎるように感じられた。水平のままでは中央へ歯が届かず、手首を返して弧を立てる。すると果肉の重みが下へ移り、クリームがこちらへゆっくり寄ってきた。慌てて皿へ戻すと、縁に果汁が一滴落ちる。
今度は皿の上で向きを変え、皮の両端を指で支えた。ひとかじりすると左端が軽くなり、そこに添えた人差し指が空く。最初の形に合わせていた指は、もう何も支えていなかった。
最後は皮をほとんど垂直にした。残った果肉を前歯で外すと、冷たい汁が親指まで伝う。空になった皮を皿へ伏せても弧だけは戻らず、指には網目の跡がしばらく残っていた。