船より先に着く

足もとの水が持ち上がり、靴を置いた岸の縁へ一度だけ強く当たった。顔を上げる。何隻もの船はまだ沖にいて、どれがこの揺れを送ったのか分からない。
船首の前には白い水が生まれ、その後ろへ細い筋が伸びている。近い船の筋は太く、遠い船のものは途中でほかの波へ紛れる。目で追えるのは船と一緒に動く白さまでで、その先は海面の細かな起伏にほどけていた。
もう一度、水が岸へ届く。正面の大きな船が作った波だと思い、船首からこちらまで見えない線を引いてみる。ところが揺れは少し斜めから来て、足もとを横へ抜けた。船が向いている方向と、波が届く方向は同じとは限らないらしい。
船は輪郭を保ったまま近づくが、波は先へ広がるほど誰のものかを失う。一隻が作ったはずの動きも、途中で別の筋と重なり、岸へ着くころには海全体の揺れに見える。原因を見つけようと沖を見ているあいだにも、結果だけが足元へ次々に届いた。
私は船の数を数えるのをやめ、岸へ当たる音を待った。小さな揺れのあと、少し遅れて大きな音が来る。正面の船はまだこちらへ進んでいる。船影より先に着いた水だけが、縁の色を一段濃くした。