最後の一段は見ない

次の段を踏むつもりで上げた足が、思ったより遠くへ降りた。靴底は段差ではなく平らな床へ触れ、膝だけが余分に曲がる。階段は一段前に終わっていた。
途中から顔を上げ、アーチの上にある時計を見ていた。針を読もうとすると顎が上がり、足もとは視界の外へ退く。上るあいだは同じ高さが繰り返されるので、見なくても身体が次の段を用意してくれた。けれど終わりだけは、その繰り返しの中に合図を持っていない。
着地の音が少し大きく響いた。つまずいたわけでも、立ち止まるほどでもない。ただ、あるはずの高さがなくなった瞬間、身体は一段ぶんだけ先へ急いだ。後ろの足が追いつくまで、上半身だけが時計の方へ残っている。
振り返れば、どこが最後だったのかはすぐ分かる。上から見た段差は明瞭で、見落としたことの方が不思議に思えた。だが、もう一度同じ向きに直ると、床と最上段の境は背後へ消える。終わった場所は、通り過ぎた途端に確かになる。
時計の針は読めたが、時刻を確かめるために足を止めることはしなかった。曲がった膝を伸ばし、そのままアーチの下へ入る。平らな床になってからも二歩ほど、足はまだ次の段を探す高さで上がっていた。