冷たさの境目を持つ

持ち上げた途端、薬指だけが冷たさから外れた。親指と人差し指には氷の近くの温度が伝わるのに、底へ添えた指はまだ卓上のぬるさを覚えている。同じグラスを握っている手の中に、二つの季節ができた。
氷が入っている高さは、外側からでも指で分かる。ガラス越しの冷たさが急に強くなり、その少し下では弱まる。目なら液体と空気の境を追うはずだが、手は氷の有無で別の線を引く。その線は水平ではない。浮いた氷が片側へ寄ると、冷たい場所もわずかに傾いた。
飲み物の温度を一つの数字で言うのは簡単である。けれど、触れているあいだの温度は場所ごとに違い、持ち方を変えるたび答えまで移る。冷たいものを持っているのかと聞かれれば、親指はそうだと答え、薬指は少し迷うだろう。
一口飲むために手首を傾ける。氷がぶつかって小さく鳴り、さっきまで冷たかった指の下を通り過ぎた。今度は薬指の側が急に冷え、人差し指の場所は遅れてぬるくなる。液面より先に、手の中の地図が入れ替わった。
グラスを卓上へ戻しても、指はすぐには離さなかった。氷が止まるまでの数秒、冷たさの境目を追って一本ずつ位置をずらす。最後に小指が触れた場所だけ、まだ乾いていた。