三歩ぶんの雨

自動扉が閉じる前に、三歩ぶん引き返した。肩はほとんど濡れていないのに、首筋へ落ちた一粒が襟の内側を冷たく滑っていく。靴の先には、外の浅い水を踏んだ跡がもう付いている。傘を持っていないことには、外へ出てから気づいた。
扉の内側で振り返る。濡れた道には傘がいくつも動いていた。外にいるあいだは見上げなかった雨が、ガラス越しなら細い筋になって見える。行き先までは遠くない。走れば済む距離にも思えた。道の乾いて見える部分だけをつなぎ、目の中でもう一度歩いてみる。
もう一度扉へ近づくと、センサーが反応して外気が入ってきた。進まないまま立っているせいで、開いた扉だけが私を待つ。そこから一歩出しては、靴底を扉の溝へ戻す。首筋の冷たさは消えかけている。それでも足は乾いた床から動かない。
後ろから来た人は、肩越しで傘を小さく開いた。私は脇へよけ、その人が残した濡れた足跡を見送る。扉が閉じると、取りに戻るための上向きのボタンを押した。