濡れた通路の店先

濡れた通路に店先の光が伸び、奥には人影がいくつか見えた。開いている店も、まだ閉じたままの扉もある。床の水は、誰かが急いで通った跡のようにも、これから始まる一日の準備のようにも見えた。
市場らしい場所では、売るものだけでなく通路の状態も仕事の一部になる。箱を動かし、床を洗い、灯りを点ける。買う人の目には残りにくい動作が、店先で立ち止まる安心をつくっている。目立たない準備ほど、次に来る人のために役立つ。
自分の作業にも、見せる前の時間がある。ファイルを整え、名前を付け、迷った箇所を一度閉じる。それは成果に直接は見えないが、翌日に戻ったときの迷いを減らしてくれる。急ぐほど、こうした通路を濡れたままにしないよう気をつけたい。
通路の奥で、灯りが一つ増えたように見えた。まだ始まっていない場所にも、すでに仕事の音がある。
水の反射を踏まないように歩き、店先を通り過ぎた。足音は小さく響いた。それだけで十分だった。