或る世界

草の中の二脚

草の中で静かに向かい合う二脚の椅子

草の伸びた場所に、小さな丸テーブルと二脚の椅子が置かれていた。誰も座っていないのに、椅子は向かい合う角度を崩していない。少し離れた通路から見ると、そこだけが会話のために残されているようだった。

席は人が座って初めて役目を持つわけではない。次に来る人のために空いていること、風や光を受けながら待っていることにも、場所を保つ働きがある。予定のない午後なら、急いで埋めない時間があってもよい。

誰かと話すとき、言葉が続くことばかりを大切にしがちだ。けれど向かい合って黙る数秒があるから、次の言葉を選び直せる。考えを急いで結論にしないためには、相手だけでなく、間を置いてくれる椅子のようなものも要る。

草がテーブルの脚の近くまで伸びている。手入れの途中かもしれないが、その不揃いさが席を少し柔らかくしていた。

いつかそこに座る人は、今日ここが空いていたことを知らないだろう。それでも、その待ち方は無駄ではない。そう感じた。