或る世界

水面へ降りる月

暗い水面へ縦に落ちていく月の光

水の向こうに低い建物が並び、その上に丸い光が浮かんでいた。水面には細い道のような反射が伸びている。手を伸ばして届く明るさではないのに、目は自然にその線をたどってしまう。

遠くの灯りは、近くで見るより静かに見える。何のために点いているのか、誰がそこで働いているのかは、暗がりの外側に置かれたままだ。それでも、こちら側にいる者は、光が消えずにあることだけで夜の広さを測れる。

考えごとも同じで、答えを急ぐと輪郭ばかりを見ようとしてしまう。しばらく距離を置けば、まだ分からない部分を残したまま、今日できることだけを選べる。見通しの悪い夜には、その程度の明るさがあれば足りる。

水面の光は、波で何度も切れてはつながった。遠いものを遠いまま眺める時間が、ゆっくりと気持ちを整えた。

朝になれば反射は見えなくなる。それでも夜に見た細い道は、翌日の歩き方のどこかに残る。目に見えない場所へ、少しだけ背中を預けられるのだった。