踏切の手前

踏切の手前では、歩いてきた速さがいったんそろう。急いでいる人も、遠回りをしてきた人も、線路の前で足を止めるしかない。遮断機が上がるまでの短い時間だけ、別々の行き先が同じ場所に並ぶ。
待つことは、予定から外れた時間に見える。しかし踏切の前では、誰か一人だけが遅れているわけではない。音が鳴り、線路の向こうが空き、また人が動き出す。その順番は個人の都合とは別に進むため、待っているあいだに自分の焦りが少し小さくなることがある。
旅の途中にも、こういう共有された止まり方がある。改札の前、船着場、交差点の信号。知らない人と話さなくても、同じ合図を待つことで、その町の時間へ一度だけ入れてもらえる。自分だけの計画を持ったままでも、周りの流れに合わせる余地は残る。
踏切の向こうへ渡る人の背中を見てから、こちらも歩き出した。止まっていた時間は、道の外には残らなかった。けれど歩幅だけは、さっきより少し静かに整っていた。