木陰の高さ

石段の前に立つと、上へ行くための高さより、頭の上の木の重なりが先に気になった。枝は何本も別の方へ伸び、葉の間から入る光だけが、段ごとの形を教えている。
階段は、上ることだけを求めるようでいて、途中で足を止める理由もつくる。息が整うまで待つこと、後ろを振り返ること、手すりの冷たさを確かめること。急いで通り抜ければ同じ場所でも、段に足を置く間に見えるものは変わる。移動は距離を縮めるが、身体が追いつくまでには別の時間がいる。
旅の行程を考えるときも、目的地へ着く時刻ばかりを数えがちだ。けれど、途中で立ち止まった場所があるから、次に歩き出す方向が少しだけ確かになる。予定にない休みは遅れではなく、歩いてきた速度を自分のものに戻すための間でもある。
木陰から一段だけ光のある所へ出た。上の方はまだ見えないまま、足もとは少し明るくなった。次の段へ足を運ぶ理由は、それだけで足りる。木の葉の音も、背中を静かに押していた。