卓上の余白

湯気の立つ器を前にすると、食べる前の数秒だけ、選択肢が多くなる。麺から行くか、卵を割るか、海苔をスープに沈めるか。空腹ならどれでも同じはずなのに、手はすぐには動かない。
食事の順番には、正解がない。好きなものを最後まで残す人もいれば、冷める前に片づける人もいる。けれど、その小さな決め方には、そのときの気分がよく出る。急いでいる日は熱いものから遠ざかり、余裕のある日は、最初の一口を少し長く眺めてしまう。
旅先では、食べ方を決める前に、周りの人の手元を見ることがある。知らない店の流儀を学ぶためというより、その場に自分の急ぎ方を持ち込みすぎないためだ。注文を待つ時間や、器を戻す場所まで含めて、その店の速度がある。自分だけの手順が、いつも最短とは限らない。
箸を取ると、卓上の瓶や水のコップは急に背景になる。迷っていた順番は、湯気と一緒にほどけていった。最初の一口には、考えていたより単純な味がある。それだけでいい。