或る世界

水たまりの窓

濡れた地面にひらく夜の逆さの窓

歩道の水たまりに、白い建物が逆さに立っていた。目の前の建物より輪郭が明るく、足もとの水だけが、遠くの窓を大きく開いている。

映ったものは、いつも本物より不安定だ。靴の先が近づくだけで崩れ、風が吹けば灯りは細かく裂ける。それでも、水面にしか現れない見え方がある。上を向けばただのビルだったものが、下を向くことで、夜の道を歩く人のすぐそばまで降りてくる。

予定や計画にも、少し似ている。頭の中で整えた行き先は、実際の移動の途中で何度も揺れる。遅れた乗り物や、急に気になった路地が、最初の線をくずしてしまう。しかし、崩れた後に残る道順の方が、自分がどこに立っていたかをよく教えることがある。予定どおりに進むことを、失敗しなかった印のように扱いすぎない方がいい。寄り道の長さでしか測れないこともある。

水際を避けて歩くと、逆さの窓は形を戻さずに消えた。暗い舗道には、灯りのかけらだけが静かにほんの少し長く残っていた。