或る世界

手前の山、その向こう

手前の稜線を越えて見える白い頂

遠くの山は、手前の稜線をいくつも越えたところで、ようやく一つの形になっていた。白さの残る頂は空に近いのに、目を動かすたび、先に低い山の起伏が見える。

目標について考えるとき、自分はつい遠い一点だけを見ようとする。その形がはっきりしていれば、今いる場所から一本の線を引ける気がするからだ。しかし実際には、途中には名前を知らない坂や、地図に小さくしか載らない町がある。そこで迷ったときの方が、地図の線より長く記憶に残る。そこを通らなければ、遠くの山もただの背景で終わる。

長い旅も、出発の日と到着する土地だけでできているわけではない。次の乗り物を探す時間、宿で洗濯を待つ時間、思いがけず足を止める午後が、行程の手触りを決めていく。大きな目的は進む向きを与えるが、身体を運ぶのは、いつも手前の小さな選択だった。

富士山の白い線を見失わないまま、目はまた森の濃い緑へ戻った。近いものにも、越えるべき高さが確かにある。