或る世界

円にできた方向

一切れの空きから、丸い菓子に方向が生まれた

丸いケーキから、一切れだけが取り出されていた。残った円には三角の空きができ、その切り口から中の層が見える。上にかかった淡い緑のものは縁で少したれ、刻んだナッツらしいものが円をゆるく囲んでいた。

切り分けられたあとで初めて、丸いものに方向が生まれる。まだ手をつけていないときには、どこから見ても同じように見えた円が、空いた場所を持つと、次に取るべき部分や残したい部分を考えさせる。一切れ減ったことは、全体が欠けたというだけではない。残ったものをどう見渡すかが、少し変わったということでもある。

切り口には、上からは分からなかった色や厚みが出ていた。外側の飾りを見ている間には、内側がどれほど重なっているかを想像するしかない。切ることは形を減らすが、同時に中にあった順番を見せる。失われた部分と現れた部分は、一つの動作の中で同じだけ増減している。

皿の上の空きに光が落ちた。残った円は完全ではないのに、さっきよりどこから手を伸ばすかがよく見えた。