或る世界

話さない水辺

同じ方角を向く二つの背中が、水辺に残っていた

水辺の木陰に、背中を向けて座る人と犬らしい姿があった。遠くには橋や水面があり、その向こうの建物は白くぼやけている。人の手は犬の背へ置かれ、二つの輪郭は同じ方角へ静かに向いていた。

誰かと同じ景色を見るとき、言葉が必要な時間と必要でない時間がある。目の前の水を指さして何かを伝えることもできるし、何も言わずに風の向きを受け取ることもできる。隣にいるものが人であれ動物であれ、同じ方角を向いているだけで、景色は一人で見るときより少し長く続く。共有することは、感想を揃えることではなく、離れずに待てる場所を持つことなのかもしれない。

水の上で小さな波が続くと、橋の線もわずかに揺れて見えた。犬が耳を動かし、人の肩が少し傾く。大きな景色の変化とは言えないが、同じ場所にいる二つの身体は別々の合図を受け取っている。互いの中身を知らなくても、反応の違いがそばにあることは分かる。

しばらくしても、手は犬の背から離れない。水辺へ向けた視線の間に、話されない時間だけがゆっくりたまっていった。