或る世界

大きな船の前で

大きな船の前で、二つの細い板が進んでいた

水の上を、二つの細い板が並んで進んでいた。遠くには大きな船が止まり、そのそばには橋や建物の線も見える。板に立つ人たちは小さく、漕ぐたびに水面との間へ短い白い筋を作った。

大きな船を前にすると、手で進む小さな動きは見えにくい。船は動かなくても場所を占め、窓や甲板をいくつも持ち、遠くからでも目を引く。しかし水面へ目を下ろすと、板の上の人は一度ごとに身体の向きを替え、同じ場所へ留まらないための力を使っている。大きさの違うものが同じ水にあると、どちらが速いかより、どちらが自分の進み方を持っているかが気になる。

風で水面が少し乱れると、板の進む線はまっすぐに見えなくなった。それでも漕ぐ動作は止まらず、白い筋だけが次の場所へ移る。遠くの船が背景になっているから、二人の移動は余計に小さく見える。けれど背景が大きいほど、手元で続く反復の確かさがよく分かる。

見ているうちに、二つの板は少し離れた。並んでいた時間を終えても、水面の上にはそれぞれの細い跡がまだ残っていた。