海に向いた椅子

海へ向いた椅子が二つ並んでいた。座面は同じ高さで、背もたれの曲がりも同じなのに、間には手のひら一枚では足りないくらいの空きがある。誰かと並んで座るための距離にも、別々に座るための距離にも見えた。
同じ方角を向けば、同じ景色を見るように思える。けれど海を見ていると、近くの波を数える人もいれば、遠くの船を探す人もいる。柵の白さが眩しいと感じる人も、風の冷たさへ先に気づく人もいるだろう。隣にいることは、視界を一つにそろえることではない。違うものを受け取ったまま、同じ時間を過ごすための余白が、椅子の間には最初から残されている。
片方の背もたれへ手を置くと、金属は日差しを受けて温かかった。座らずに手を離すと、もう一方の椅子も同じ光を受けていることが分かる。人の重さが加わらなくても、椅子は海の方を向いたまま、次に来る人の姿勢を静かに待っている。
柵の向こうで、水面の色が少し変わった。二脚の間にある空きは、その変化を誰のものにもせず残していた。