或る世界

箸の空いた場所

最初の一口の前に、箸先だけが席を選んだ

湯気のある椀へ先に箸を伸ばしかけて、手を止めた。中央の皿には、薄い皮で包まれたものが二つ並び、その奥にはまだ手をつけていない椀がある。

食べたいものから決めるより、いま目の前でいちばん形を保っているものを取ることがある。箸を置く場所、椀の縁、隣の人の手の届くところまで考えると、最初の一口は味より先に卓上の空きを選んでいる。

ひとつを皿から持ち上げると、下に隠れていた汁が少し広がった。箸先の空いた場所へ、さっきまで遠かった湯気が流れてきた。