或る世界

パンダは急がない

人の流れの脇で、パンダだけが動かなかった

パンダは通路の端で、少しだけ首をかしげていた。

背中の赤い座席には誰もいない。人はその前を二人ずつ、あるいはひとりで通り過ぎ、明るい店の方へ向かっていた。乗り物の目は同じ場所を見ているが、待っている相手を決めているようには見えない。

それでも、足を止める人がいた。連れの背中へ声をかけ、パンダのそばまで戻ってくる。

乗るかどうかを相談している間、後ろの通路にはまた別の人が流れた。座席の赤だけが灯りを受け、さっきから何も変わらない顔のそばで少し明るくなる。急いでいる人の列と、動き出さない乗り物が並んでいると、どちらが時間を使っているのか分からなくなった。

やがて二人は歩き出す。パンダは首をかしげたまま、次の足音を待っている。