或る世界

鍵の向き

帰って鍵を卓上へ置くと、歯のある方がこちらを向いた。上着を脱ぐ前に、それだけを裏返した。

鍵穴へ入れるあいだだけ、歯の並びには決まった向きがある。置かれた途端、その向きは次に持ち上げる手だけのものになる。

机の上の影は、鍵より少し先へ伸び、金属の輪の内側を暗くした。

金属の輪が板に小さく触れた。鍵はもう開けるものではなく、次に出るまでの間だけ、机の端で薄く光っていた。