水面だけが遅い

岸で空を見上げてから、水面へ目を下ろした。雲の切れ目には薄い橙色が残っているのに、水は青灰色のままで、小さな波だけがその明るさを細くほどいていた。
夕方の色は、空から順に暗くなるものだと思っていた。けれど水面には、雲の下へ隠れたはずの色がまだ留まり、波の向きごとに違う明るさを返している。空の変化をそのまま写しているのではなく、少し遅れて受け取っているようだった。
向こう岸の橋と低い輪郭は、先に黒くなっていく。形が見えなくなるほど、水の中央だけが明るく見えた。景色の中で最後まで残るのは、いちばん高いところの光ではないことがある。
風が少し強くなると、明るい筋は短く切れた。水面は色を抱えたままではなく、細かな揺れへ渡していく。岸を離れるときにも、その揺れだけはまだ橙色をほどいていた。