或る世界

看板の先

閉じた通りに、看板の文字だけが遅くまで残る

歩道の端で足をゆるめると、格子の向こうは暗いのに、製作所の看板だけが通りへ明るく出ていた。ボルトとナットという文字を、急いで読んだ。品物を買う予定はなかった。

隣のシャッターは下り、車の窓にも人影はない。それでも看板は、何を作る場所かだけを、閉じた戸より先に知らせている。中が見えないから、文字の方が店の前まで来ているようだった。

少し先へ進んでから、もう一度振り返る。明かりに浮いた字は、店を開ける約束ではなく、通りを歩く人の速度を一度だけ緩めるために残っている。

横断歩道の白線へ足が届くころ、背後の看板は建物の角に隠れた。読んだ文字だけが、暗い通りの中で手のひらほど明るかった。