或る世界

耳の横の花

一歩のあいだだけ、花は目線より低くなる

歩道へ張り出した細い枝の下で、肩ではなく首だけを少し傾けた。白い花の一つが耳の横を通り、袖に触れずに背後へ去る。

枝を越すために身体全体をよける必要はなかった。足を止めるほど低くもない。首の角度を変えるだけで、花の高さは頭の横を通り、次の一歩でまた目の上へ戻る。

花をよけたつもりで、枝から遠ざかったわけではない。身体を戻せば、同じ花はすぐ頭上の距離に戻る。

通り過ぎて振り返る。さっき肩のそばにあった花は、枝の先で再び空を向いている。近づきすぎたのは花ではなく、自分の高さのほうだった。