或る世界

敷居の前足

開く扉の手前で、前足だけが少し引かれる

入口の脇で伏せていた犬が、扉の蝶番の音に片目を開けた。人が出てくる前に、敷居へ伸ばしていた前足を一つだけ胸の下へ引いた。

扉が外へ動くと、犬の毛先が風で少し持ち上がった。通った人は足もとを見て横へ出ていく。犬は頭を上げず、空いた敷居の端だけを残している。

扉が閉じると、前足はまた段差の手前へ伸びる。ただし、さっきの場所より指一本ぶん内側で止まる。引いた前足の先だけが、マットの縁を離れている。犬は目を閉じ、戸板の影が毛の上をゆっくり戻ってくる。