或る世界

匙の傾き

見えない先端の深さを、柄の傾きだけが伝える

菓子の上に置いた匙の先が、濃いソースを押し分けて少し沈んだ。持ち手はまだ皿の外へ傾き、先端だけが柔らかい面に隠れている。

そのまま手を離すと、匙は倒れずに止まった。黒いソースの下でどこまで生地へ入っているのかは見えない。皿の端から見える柄の角度だけが、先端の深さを知らせていた。

匙を抜くと、先端に淡い生地が少し付いた。残った穴はソースで暗く、皿の白さより先に、匙の重さだけを受け取った場所のように見えた。

もう一度置くと、匙は少し違う角度で止まる。皿の縁へ伸びる柄の影が短くなる。濃い表面に沈んだ先端を量るのは、その細い銀色だけになる。