或る世界

見える方へ注ぐ

注いだぶんだけ、隠れていた量が高さを持つ

金属ポットを持ち上げると、手首へ重さがかかった。中に湯があることは分かる。それでも蓋を閉じたままでは、どこまで入っているのか、外側からは見えなかった。

傾けると、細い流れが空のガラス杯へ落ちた。透明な壁の内側に水位が生まれ、注いだ量だけが高さになった。ポットの重さは減ったはずだが、残りは相変わらず金属の中に隠れている。

同じ湯なのに、容器を移ると分かり方が変わる。ポットでは手に受ける重さとしてしか確かめられず、杯では目で高さを追える。ただし、見えるようになったのは全体ではない。外へ出したぶんだけである。

杯の高さを決めるために、ポットの全量を明かす必要はなかった。見えない側から少し移し、透明な壁に現れたところで止める。必要な一杯を決めても、残りはまだ形を見せず、次に傾けられるまで蓋の下にいる。

杯を持ち上げると、水面も同じ高さのまま上がった。卓上へ戻したあと、ポットを軽く揺らすと、金属の内側から短い音だけが返ってきた。