或る世界

風を一軒ずつ

店の境を越えるたび、同じ暑さに別の風が触れる

店先を一軒過ぎると、首筋へ風が来た。数歩だけ涼しくなり、柱を越えたところで止む。次の店へ近づくと、今度はシャツの袖が先に揺れた。

通路には壁がない。床の石も同じまま続いている。それでも身体には、風のある区画と、暑さが戻る細い隙間が交互に現れる。

扇風機は店の中から通路へ顔を出し、誰が通るかを選ばず回っている。ひとつの風を追いかける前に別の風が横から触れ、どの店の涼しさだったのかはすぐ曖昧になった。

歩みを止めると、頬の風だけが先へ行った。向かいの紙札が小さくめくれ、ひとつ先の店の前でまた戻った。