或る世界

部屋が地図になる

屋根を失った部屋が、歩く人の前で平面へ変わる

遺跡の低い石壁のあいだを歩くと、いくつもの部屋を一度に見渡すことができた。入口らしい切れ目も、隣室との境もわかる。しかし、そこに立っていても、部屋の中へ入ったという感覚は弱い。

壁が人の背より高ければ、向こう側を隠し、こちら側を一つの内部にする。角を曲がるまで次の部屋は見えず、入口を通るたび景色が切り替わる。建物は、身体が順番に読む立体である。

ところが壁が膝ほどの高さまで失われると、境は残っていても視線を止めない。複数の部屋が同時に目へ入り、歩く前から奥の配置までわかる。身体を囲っていた線が、今度は地面の上で平面図のように働き始める。

同じ石壁でも、高さを失っただけで役目が反転するらしい。内と外を分ける力は弱くなる一方、部屋同士のつながりを見せる力は強くなる。建物として壊れた形が、配置を読むためにはかえって完全に近づく。

一つの切れ目をまたいでも、頭上の空は変わらなかった。足だけが別の部屋へ入り、目はずっと建物全体の上にあった。暮らす場所だった区画は、囲う高さを失い、歩いて読める地図になっていた。