建物より先に空を使う

建設中の高層建築では、いちばん高い場所に壁や屋根ではなく、クレーンの腕があった。建物はまだ途中で止まっているのに、作業する範囲だけが、その先の空へ伸びている。
完成した建物が使うのは、柱と床で囲われた場所である。部屋にならない高さや、外壁から遠く離れた空間は、建物の外として残る。しかし工事中には、その外側へ材料を持ち上げ、横から運び込まなければならない。
クレーンは、将来の建物そのものを先に作るわけではない。何もない高さへ一時的な道を通し、地上の材料と、まだ床のない場所を結ぶ。腕が回る範囲には壁も入口もないが、荷を運ぶあいだだけ、そこは現場の内側になる。
作るために必要な場所は、完成後に使う場所より広いらしい。建物の外へ足場を置き、上空へ腕を伸ばし、周囲の空まで借りなければ、決められた輪郭の内側を作れない。
夕暮れの中で、細い腕が躯体より長い影を引いていた。階が増えればクレーンも上へ移り、役目を終えれば空から消える。完成した建物には、そこを先に使っていた大きな作業場所だけが残らない。