寝転ぶと海になる

波が引いたあとの浅瀬へ、身体を横たえてみた。立っていれば足首にも届かない水が、胸や腕のまわりへ薄く広がる。海の深さは変わっていないのに、身体の向きを変えただけで、浸かる場所が増えた。
深いところへ行くには、沖へ進むものだと思っていた。岸から離れるほど足もとの砂は下がり、水は膝から腰へ上がってくる。しかし、自分の高さを低くすれば、岸の近くにも全身で水を受ける場所を作れる。
立つ身体は、深さを足もとから測る。横になる身体は、同じ数センチの水を、頭から足までの長さで受け取る。水位という一つの数字だけでは、その場所が身体にとってどれほどの海になるかは決まらないらしい。
次の波が来ると、薄い水が背中の脇まで回り、すぐ沖へ戻っていった。起き上がれば、そこはまた歩ける浅瀬だった。深い海から帰ってきたのではない。身体を縦へ戻したぶんだけ、水が浅くなっていた。