或る世界

匙は元の皿へ帰る

味が会う場所から、汲んだ匙だけが戻っていく

二つの煮込み料理には、それぞれ別の匙が入っていた。片方の汁を米へ移したあと、その匙は元の皿へ戻す。もう片方を取るときには、隣の匙を使う。

口の中では二つの味が同じ食事になる。それでも卓上では、濃い汁の皿へ薄い汁の匙を入れず、反対もしない。味が会う場所は米と口の側にだけあり、汲み出した元の器までは戻っていかない。

一本の匙ですべてを運ぶこともできる。しかし、同じ匙を二皿へ入れれば、わずかな汁が往復するたび、元の味も少しずつ相手を含む。道具を分けることは、食べる人を分けることではなく、変化を受け取る場所と、元のまま残す場所を分けている。

食べ終わりに近づくと、二本の匙はそれぞれ色の違う汁をまとっていた。どちらも同じ米へ味を運んだのに、互いの皿を訪ねた跡はない。同じ一人の食事へ集まりながら、帰り道だけは最後まで別々だった。