或る世界

剥がれたところだけ厚い

絵が消えた場所から、支えていた層が現れる

石窟の天井を見上げると、古い絵がところどころ剥がれ、色の下から粗い面が現れていた。残っている部分では一枚に見える天井が、欠けた縁だけで何層かに分かれている。

絵が失われれば、見えるものは減るはずである。人物も模様も色も、剥がれた分だけ読めなくなる。けれど、何もなくなった場所には、それまで絵を支えていた面が見える。完成した表面の奥に、別の材料が重なっていたことを初めて知る。

傷んでいない絵は、壁を薄く見せる。視線は描かれた形の上を進み、その下にある厚さを考えない。欠損は像を壊す一方で、壁へ小さな断面を開く。

失われたものを、残った下地で取り戻すことはできない。それでも剥がれた縁をたどると、絵が表面だけで生きていたのではなく、見えない層に支えられていたことだけは残る。色が消えた場所で、天井はかえって厚くなって見えた。