食べられる匙

薄いパンを一片ちぎり、指先で折って、汁をすくった。匙のように口まで運ぶが、汁だけを残して戻すことはない。器になったパンも一緒に食べる。
食事の道具は、食べ終わったあとにも卓上へ残るものだと思っていた。箸は皿の脇へ置かれ、匙は空になった器の中にある。洗えば、次の食事にも使える。
ところが、パンを使うと、道具と食べ物の境目が一口ごとに消える。汁を受け止めるまでは匙であり、口へ入れば中身の一部になる。役目を果たした証拠は卓上に残らず、こちらの身体へ移る。
しかも、大きな一枚をそのまま道具にはしない。次にすくう量に合わせて小さくちぎり、その一回だけの形を作る。深い汁には縁を折り、固い具には少し厚い部分を使う。使う前に作り、使い終わると食べてなくす。
皿の脇に残るパンは少しずつ小さくなった。食べ物が減っただけではない。これから作れる匙の数も、同じ速さで減っていた。