或る世界

2019年12月

  1. 足もとで混ざるものが、空の縁では一つずつになる

    数えられる高さ

  2. 同じ速さは、同じ歩幅から生まれるとは限らない

    二人分の一歩

  3. 大きな傾きを、小さな水平が少しずつ受け止める

    坂の中の平ら

  4. 距離より先に、空気の層が景色を選んでいる

    遠い方が見える

  5. 持てる形を離したとき、届く広さが生まれる

    手から離れて大きくなる

  6. 隠さない仕組みは、故障したあとも手の近くにある

    外にある内側

  7. 速さを増やさない車輪が、止まる時間を支えている

    三つ目は待つため

  8. 空の速さは、動かない縁に触れて初めて見える

    尖塔は空の目盛り

  9. 火が通り過ぎても、輪郭だけはすぐには崩れない

    灰はまだ一本

  10. 同じ中心へ向かうほど、身体の方角は離れていく

    背中合わせの正面

  11. 足もとを支える道と、次の向きまで決める道がある

    道が先に曲がる

  12. 街は着陸を待たず、足もとの空から始まっていた

    滑走路より手前

  13. 閉じない覆いが、別々の店を一つの通りに束ねる

    濡れる天井

  14. 同じ手順の中で、炎はそれぞれの揺れ方を保つ

    火だけは揃わない

  15. 名前のない門にも、一語がこちらと向こうを作る

    壁が「ここ」になる

  16. 同じ山の朝が、高い場所から順にほどけていく

    朝は峰から降りる

  17. 見える幅を狭めた谷が、距離の深さを残していく

    谷は遠くを指す

  18. 地上の高さを越えても、見上げる先には空が残る

    峰より上の余白

  19. 一口だけを決めれば、次の味はまだ器に残せる

    一口ぶんの混合

  20. 止まらない背中にも、姿勢を直せば居続けられる

    呼吸する足場

  21. 答えより先に、同じ方角へ問いが集まる

    首だけが先に集まる

  22. 最初の縁を越えても、まだ戻れる場所がある

    外にもまだ内側

  23. 見えない結び目が、写っている線を張っている

    枠外の結び目

  24. 一本の輪郭の下で、山は何度も入れ替わる

    空際の持ち主

  25. 離れて戻る色が、街の広がりを結び直す

    青は飛び石

  26. 地面だった高さが、そのまま壁の役目を続ける

    城は岩から始まる

  27. 流れを止めた短い間が、一つ分の縁になる

    流れの切れ目

  28. 同じ景色にも、夜へ入る順番がある

    足もとだけ先に夜

  29. 近い二端のあいだへ、長い表面を折り畳む

    壁の中の遠回り

  30. 印のない空にも、目が戻る場所を作れる

    三つだけ先に戻る

  31. 曲がり方が時間差で列の後ろへ届く

    前の背中が道になる