或る世界

首だけが先に集まる

答えより先に、同じ方角へ問いが集まる

草の向こうで小さな音がすると、散らばっていた鹿たちの顔が一斉にこちらを向いた。身体の向きはばらばらのままである。横腹を見せるものも、背を向けかけたものも、首だけを回して同じ方を見た。

何かへ注意を向けるとき、身体ごと正面をそろえる必要はないらしい。足はそれまでいた場所に残し、食べかけの草のそばに立ったまま、目と耳だけを新しい方角へ渡せる。

群れが一つになるというと、同じ方向へ歩き、同じ動作をする姿を思い浮かべる。しかし、全身をそろえるには時間がかかる。物音が何なのかまだ分からない段階では、逃げる方角を決めるより先に、首だけを向ければよい。

そろっているのは姿勢でも結論でもなく、短いあいだの問いだった。何がいるのか。近づいてくるのか。互いの判断を待っているとは限らない。それぞれが確かめているだけでも、答えのない時間には、一つの方角が群れを横切る。

やがて一頭が顔を草へ戻すと、ほかの首も少しずつ別の向きへほどけた。群れは一つの結論を出したようには見えなかった。ただ、行動を決めるより前の注意だけが、離れた身体を短く結んでいた。