或る世界

一口ぶんの混合

一口だけを決めれば、次の味はまだ器に残せる

盆の中央にある飯を少し崩し、端へ寄せた。そこへ小鉢から汁を一匙だけ移す。全体へかけるのではなく、一口ぶんの飯にだけ味を渡して食べる。

いくつもの料理を一緒に食べるなら、初めに全部を混ぜてもよさそうに思える。けれど、一度混ざった味を元の器へ戻すことはできない。辛いものを多く入れれば、次の一口もその辛さを引き受けることになる。

小鉢が分かれていると、選ばなかった味はそのまま残る。豆の汁を合わせたあとに野菜を選び、その次には酸味のあるものを少し足せる。組み合わせを変えても、変わるのは中央から切り出した一口だけである。

飯は主役であると同時に、小さな混合場所にもなっていた。皿全体を一つの味へ決めず、必要な量だけをその都度受け取る。中央に広い余白があるから、周囲の小鉢は最後まで別々の可能性を保てる。

選択肢を残すには、何も選ばないことが必要だと思っていた。しかし、選ぶ範囲を小さくすれば、食べながらでも残りを守れるらしい。一口は決める。次の一口までは決めない。

飯の山は少しずつ低くなり、その周囲に違う色の跡が増えた。食事の終わりにはいくつもの味が同じ身体へ入る。それでも盆の上では、最後の一口を作る直前まで、別々の器で待っていた。