或る世界

峰より上の余白

地上の高さを越えても、見上げる先には空が残る

雪山を見上げる前には、峰が視界の大半を占めるものだと思っていた。近くの建物なら、高いほど首を反らし、屋上まで視界に収めるのが難しくなる。しかし遠い連峰の前に立つと、尖った頂は空の下側へ細い線を引くだけで、その上には何倍もの青が残っていた。

山の高さは、海面から測れば大きな数字になる。それでも、目に入る大きさは標高だけでは決まらない。立っている場所からの距離や、見上げる角度によって、巨大な山も視野の一部へ収まる。

高いものは、上にある空を減らすのだと思っていた。街では塔や建物が空を切り取り、近づくほど青い部分が狭くなる。ところが山は、頂まで見えても空を使い切らない。地上の輪郭を大きく持ち上げながら、その先にまだ何もない広さを残している。

高さには、頂点へ着けば終わる尺度がある。けれど、見上げることには終点がないらしい。峰に視線が届いたあとも、そのまま上へ進めば、名前も目盛りもない空が続く。最も高いものを見つけても、それが視界の一番上になるとは限らない。

峰から少し目を離すと、山は青空の下端へ戻った。雪の稜線は地上の高さを示し、広い空は、その数字だけでは埋まらない残りを見せていた。