或る世界

滑走路より手前

街は着陸を待たず、足もとの空から始まっていた

飛行機が高度を下げると、窓の下を埋める建物が少しずつ大きくなった。まだ車輪は地面に触れていない。それでも、雲の上を進んでいたときとは違い、もう街の中へ入ったように感じる。

街に着く時刻は、たいてい空港への到着で決まる。機体が滑走路へ降り、扉が開き、足が床へ移ったところに一本の境目を置く。しかし、街は空港の柵から始まっているわけではない。屋根や道は滑走路より手前から窓の下へ現れ、機体を囲む空気まで、地上の暮らしの上にある。

陸路なら、街へ入ることを境界線を横切る動きとして考えやすい。空から近づくと、その線を越えた瞬間は見つけにくい。街の外から中へ移るというより、街とのあいだに残っていた高さが少しずつ減っていく。

到着は、止まった瞬間だけにあるのではないのかもしれない。まだ飛んでいる身体と、すでに下へ広がっている街との距離が縮まる。その途中にも、着くことの一部がある。

翼の下では、建物の列が霞の奥まで続いていた。滑走路はまだ見えない。けれど街のほうは、着陸を待たず、足もとの空からこちらを包み始めていた。