手から離れて大きくなる

舟の上で網を手にまとめると、それは腕の中へ収まる細い束になる。けれど、水面へ放つと、糸は互いに離れ、手で抱えていたときよりずっと広い場所へ薄く広がった。
道具は、使うときにも持てる大きさでなければならないと思っていた。傘は開いても骨の長さまでだし、鞄は膨らんでも肩から提げられる。ところが網のいちばん大きな姿は、持っているあいだには現れない。
手を離れた勢いと、糸の先についた重みが、束をひととき大きな面へ変える。その面は水に触れた端から崩れ、やがて引き寄せられて、また両腕へ戻る。広さは道具の内側にしまわれていたのではない。投げる人と水とのあいだで、その都度つくられていた。
遠くへ届かせるには、握ったままではいられない。ただし、すべてを失うほど放すのでもない。戻すための糸だけを残し、残りを手から送り出す。
網は回収されれば、もう一度小さな束になる。小さくなったのではなく、次に手放されるまで、広さを動きの中へ預けている。